パパは覇王

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 シンタローのパパはね。
 とっても、えらいんだって。
 せかいでいちばんなんだって。
 はおう、ってゆうんだって。



 今日もね。
 でっかいひこうきから、パパとシンタローが、おりたらね。
 みんなが、けいれい、するんだよ。
 たくさんの軍人さんのね。白いてぶくろが、さあって、波みたいに。
 おっきい海の、波みたいに。
 シンタローをだっこしてるパパに、波がよせるみたいに。
 そしたら、パアンって。ドンドンパンパン、はなびが、あがったよ。
 きれいなの!



 それでね。
 ラッパとか、たいことか、ふえが、じゃんじゃんなるんだよ。
 軍人さんが、ザッザッって、こうしん、するんだよ。
 おそらには、バラバラバラって、ヘリコプターがいっぱい。
 あるくとこに、赤いじゅうたんが、ひいてあるの。
 どんな国にパパとシンタローがあそびにいってもね。
 いっつも、こうやって、ようこそ! ってされるんだよ。
 そしてね。
 おヒゲのこわいかおした、おじさんたちが、ひこうきの下でせいぞろいして、まってたの。
 パパにむかって、あいさつしたよ。
 それをみたら、パパは、シンタローをじめんにおろしたの。
 そして、そのおじさんたちと、あくしゅしようとしたの。
 でもね。
「ああっ! シ、シンちゃん!」
 シンタローは、ぱあって、かけだしたの。
 いっぱいの軍人さんのあいだをね、しょうがいぶつきょうそう、したの。
 ほらね。
 かってにパパが、だっこ、やめるからこうなるの。
「シンちゃん! 待ってよ! パパと一緒におててつないでてよ!」
「総帥閣下……」
「シンちゃん! 一人でそっち行っちゃダメだって! パパを置いてかないで!」
「パパー! ここまでおいでー」
「ああもう、シンちゃんてば、かけっこ早いんだからっ!」
 そうやって、みんな、ほっぽりだしちゃって。
 バタバタってシンタローを、がんばって追いかけてくる。
 こんなシンタローのパパは。
 ちょっと……バカ。




パパは覇王





「もー! パパったらぁ! シンタローがいないと、ダメなんだから!」
「んもうシンちゃん。勝手に走り出しちゃ、パパ困っちゃうよっ! 走る時は、よーいドンしなさい、よーいドン。あーあ、びっくりするコトばっかりするんだから。そんなとこも可愛いんだから」
「ごめんねぇ、パパ!」
 あのね。
 みんながパパをね。えらい人だって、おもってるみたいなの。
 でも、ほんとはちがうよ。
 いつもシンタローは、こっそりクスって、わらってるよ。
 だってパパ、シンタローのつくった、おとしあなに、おちるもん。
『わー! シンちゃ〜ん!! 助けて〜!!』
 シンタローのはしるのに、おいつけないもん。
『わー、シンちゃん、待ってー!!』
 シンタローがいないと、おばけこわくてねむれないって、ゆうもん。
『えーん、パパ、シンちゃんいないと、こわくってさあ!』
 いいおとなが、カッコわるいの。
 みんな、だまされてるの。
 シンタローだけが、ほんとのこと、しってるの。
 でもね、パパ。
 シンタローはいい子だから、ひみつにしといてあげるよ!
 ばらされたら、パパ、こまるでしょ?
 だから、ワンコのぬいぐるみ、かってほしいの。



★★★



 今日は、グンマがきたよ。
「えへへぇ、シンちゃ〜ん」
「よぉ、グンマ」
 パパは、シンタローのこと、シンちゃんってよぶの。
 グンマは、シンタローのこと、シンちゃんってよぶの。
 パパは、グンマのこと、グンちゃんってよぶの。
 そうよぶのは、パパひとりだけだよ。
 だから、グンマはなまいきなの。
 でもシンタローは、グンマのこと、グンちゃんってよびたくないの。
 だって、カッコわるいよ。
 ちゃんってつけてよぶなんて、カッコわるいコト、しないよ!
 シンタロー、かわいいっていうより、カッコいいって、ゆわれる子になりたいの。
 それでね。
 みんなが、グンマのハネたかみが、かわいいってゆうの。
 だからシンタローは、さわってみたよ。
 ふわふわだったの。
 ひっぱったら、グンマはないちゃったの。
 パパがきて、シンちゃん、グンちゃんいじめちゃだめだよぉ、ってゆうから、シンタローはちがうよってゆったの。
 グンマのかみが、ひっぱってって、シンタローにゆったんだもん。
 きらきら、きんいろにひかって、ひっぱってって、ゆったんだもん。
 だから、シンタロー、わるくないもん。
 グンマのかみが、わるいんだもん。



「シンちゃぁん、シンちゃぁん」
 おひるごはんの、あとにね。
 グンマがよぶよ。
 シンタローは、ためいきついて、こたえるの。
 どうせ、またあそんでほしいってことなの。
 シンタローは、おそとにいきたいのにな。
 でもグンマはさっきから、おへやのソファで、うちゅうのほんみて、こうふんしてるの。
「なぁに」
「うちゅうって、すごいねぇ! すごぉく、でっかいの! ピカピカだよぉ! それでね、おほしさまがね、たくさんあってね、」
 グンマは、なんだって、すごいってゆうの。
 かんしんしすぎなの。
 こんなんじゃ、いつか、だまされるの。
「あのねぇ、シンちゃぁ〜ん! グンちゃん、うちゅうにいきたいよぉ〜!」
 たんじゅんなの。
 しかたないから、シンタローは、つきあってあげるの。
「じゃ、いいよ。このソファ、うちゅういく、スペースシャトルね」
「わぁ〜い! ぼくぅ、シンちゃんといっしょにぃ、うちゅういく!」
「はっしゃするから、目つむってろよ、グンマ」
「シンちゃん、ぼくも、はっしゃしたいよぉ」
「ダメぇ! これはシンタローがはっしゃってゆうの! でなきゃ、やめる!」
「ふぇ〜ん、やめちゃヤだよぉ〜」
「グンマ、目ぇつむった? よーし、ずどーん! はっしゃ!」
 そしてシンタローも、目、つむったの。
 つぎに目、あけたときは、もう、うちゅうだったよ。



 お月さまにいったの。
 じめんが、きんいろだったよ。
 おそらに、ちきゅうが、うかんでたよ。
 それで、ひっしにグンマが、ウサギ、さがしてたの。
「ウサた〜ん! ウサた〜ん! いないのぉ?」
 シンタローは、そんなのより、もっとカッコいいのがいいの。
「うちゅうじーん! でてこぉーい! うちゅうじーん!」
 ふたりで、よんでたら。
 とおくから、『はァ〜い』って、へんじがきこえて。
 なにか、ちかづいてきたよ。
 これが、うちゅうじん。
 でも。



 でも、かおが、さかななの。
 したが、ベロンて、ながいの。
 それで、ピンクのカタツムリみたいなカラ、せおってたの。
 それから、あしが、たくさんあって。
 うじゅるうじゅるしてたの……
 しかも、いっぽんいっぽんに、アミタイツ、はいてるの。
 キモいの。
 シンタロー、こういうの、きらいなの。
 なまぐさいの。
「わぁ、うちゅうじんさんだー」
 グンマがちかよろうとしたから、シンタローは、とめたの。
 こういうのとは、おはなししないほうが、せいかいなの。
「アタシを呼んだァ? カワイイ坊やたちぃ うふっ
 ……しかも、オカマなの。
「あっちいこ、グンマ」
「んー、でもぉ、シンちゃぁん」
「そうよぉ。折角来たんだから、ゆっくりして行きなさいよぉ、シンタローさぁん
 なんだかシンタロー、さむけがしたの。
「グンマ! はしろう!」
「えぇ、どぉして、シンちゃぁん」
「いいの! ふきつなよかんがするの!」
 シンタロー、グンマの手をつかんで、はしったよ。
 でも!
 なまぐさいのが!
 おいかけてくるの!



「ウフッ……愛しい殿方のちみっこ時代を覗く幸せ そう、アタシはアナタの未来のラヴの寄せ集め……受け取ってェ、この溢れるヌラヌラヴ! ナマモノだからお早めにッ!」
 へんたいなの!
 おことわりなの!
 はしって、はしったよ!
 そしたら、ガケが!
 いきどまりなの!
「とびおりるぞ、グンマ!」
「ふぇ〜ん、シンちゃん、いやだよぉ、こわいよぉ」
「いいの! いくの! シンタローがいるから、だいじょうぶなの! 目、つむるの! それぇ!」
「うわぁぁ〜〜んっ!」
 ふたりで、とびおりたの。
 ひゅ――――んって。
 風のおとに、まじって。
「シンタローさぁぁぁ〜んっっ アタシ達、待ってるわよォ〜〜! 早くイイ男に育って、島に来てねェ〜〜!!!」
 さいごに、のろいのことばが、きこえたの。



 パチッ。
 シンタローが、つぎに目、あけたときには。
 ベッドのなかだったよ。
 となりでグンマも、目、あけてたよ。
 しばらく、キョロキョロしてたけど。
 それから、やっぱり。
「う、う……ふぇぇぇ〜〜〜〜んっっっ!!!」
 グンマ、おおごえで、なきだしちゃった。
 そしたら、バタバタって、あしおとがして。
「グンマ様! 大丈夫ですか、グンマ様〜〜〜!!!」
 高松が、へやに、とびこんできたよ。
 なみだとはなぢ。
 どばあって。
 シンタロー、それをよけて、えいって、ベッドからとびおりたよ。
 高松とグンマは、いっつもなんでも、おおさわぎなの。
 べつに、いいけど。
 ここはシンタローのいえだから、あとしまつだけは、ちゃんとしてほしいの。
 よごれたの。
 そしたら、あとからパパがきて。
 シンちゃん、よくねむれたかいって。
 パパが、しずかだなって、おもったら。
 ふたりとも、ソファで、いつのまにか、ねちゃってたんだよって。
「シンタローとグンマ、うちゅうじんにあったの」
 そうゆったら、パパは。
 あははーって、わらって。
「じゃあ、シンちゃん、いつかパパと一緒に宇宙に行こうね。世界を征服したら、次は宇宙だからさ」
 って、ウインクして。
 ゆったんだよ。



★★★



 今日は、ハーレムおじさんがきたの。
 ごはんたべに、いくからだよ。
 おいしいものたべるときとか、たのしいとこにいくときとか。
 ぜったい、くるの。
 よんでないのに、くるの。
「へっへ。シンタローよ、相変わらず小っせェナ? その分じゃぁ、まーだオネショしてやがんじゃねーのか〜 今度おじさんが、オムツ、プレゼントしてやるぜェ?」
 またシンタローをバカにするの。
 わるいおじさんなの。
 それで、シンタローがパパがいないと、なんにもできないとかって、そんなコトゆうの。
 それはちがうよ!
 ぎゃくなの!
 パパが、シンタローがいないと、なんにもできないの!
 ハーレムおじさん、わかってないの。
 それにじぶんこそ、あにき〜ってパパについてくよ。
 カッコわるいの。
 それにオムツどころか!
 シンタローとグンマに、おとしだまも! くれないの!
 まったく、しんじられないの。



 それでね。
 きょうのごはんは、おしろで、たべるんだよ。
 くろいもりを、車でとおってきたよ。
 みずうみがあってね。
 シンタローたちが、そばにきたら、ガコーンって、おおきなおとがして。
 みずうみにうかぶ、おしろにわたる、はしが、おりてきたよ。
 なかにはね。
 おへやや、ろうかに、よろいとか、おうさまのえとか、なんかたくさんあるの。
 シンタローたちのテーブルのそばで、オーケストラのひとたちが、きれいなおんがく、えんそうしてたよ。
 リクエストは、ってきかれて。
 ハーレムおじさんが『ネコふんじゃった』ってゆって、パパにこわいかお、されてたよ。
「オイ、シンタロー。北京ダック食いたくねーか、北京ダック」
 きんきらの、いすに、すわってからね。
 パパが、だれかと、おはなし、してるときに。
 けちんぼおじさんが、そうゆって、のぞきこんできたの。
 また、にやにやしてるの。
「ペキダ……? そんなヘンなの、シンタローはいらないよー」
「あーあー。ま、ガキだから仕方ねーか! 大人の味ってのがワカるハズねーよナ。こりゃ言った俺が悪かった」
「パパー! シンタロー、ペキダクたべたいー」
「なぁに、シンちゃん、ペキダクって。ここドイツだけど、そんな料理あったかなぁ?」
「あー、きっと兄貴! シンタローは北京ダックって言ってんじゃねェかァ? 俺のカンがそう言ってる」
「シェフ」
「はっ!」
 パパが、ぱちんって、ゆびを。
 そしたら、すぐにね。
「喜びをもたらす一品です。総帥に千代万代の栄光あらんことを……」
 シンタローより、おっきい、鳥のりょうりが、でてきたよ。
 おとこのひと、さんにんで、やっとはこんできたの。
 だけどね。
 シンタローのおさらには、かわ、しかくれなかったの。
「シンちゃん、これ、皮を食べる料理なんだよ。こうやって包んで……熱いから気をつけてね」
「そーそー。お前は皮を食べてナ。仕方ねェ、俺は余り物でいーから、肉をいただくゼ。いやあ、兄貴とメシ食いに行くと肉が足りなくってなァ」
「お前は野菜も食べなさい、ハーレム!」
「まぁまぁ兄貴、いーじゃねぇかよ。ここはシンタローに免じて、な?」
「お前が言うな」
 ……。
 なんか、なっとくいかないの。
 だからけっきょく、シンタロー、もともとのコースをたべたの。
 おいしかったけど。
 ハーレムおじさんいると、シンタローは、いっつも、なっとくいかないの。



★★★



 今日はね!
 サービスおじさんがきたよ!!!
 シンタローはね、たのしみでね! たのしみでね!
 きのうのよるから、ねむれなくってね!
 もう、たいへんだったの!
 わくわくどきどき、ぜいぜいはあはあなの!
 ぎんいろのひこうきが、ちゃくちしてね。
 サービスおじさん、カッコよく、おりてきてね。
 まっさきに、ふわって、シンタローのあたま、なでてくれたの!
「また背が伸びたね」
 って、ゆってくれたよ!
 うわぁい!
 おじさん、よくわかるの!
 シンタロー、このまえ、おじさんにあったときから、こゆびはんぶん、おおきくなったよ!
 さすが、サービスおじさんなの!
「クッ……サービス……今の適当に言っただろう……お前はいつも要領良くオイシイ所を……」
「何ですか、兄さん。邪魔しないで下さい」
 サービスおじさん、シンタローをだっこしてくれたよ。
 ほっぺた、スリスリしてくれたよ。
「わぁ、サービスおじさん、すべすべー」
「シンちゃん! パパだって! パパだって、まだ20代のお肌ピチピチだよ! すべすべのつるつるだよっ!!!」
「うるさいですよ、兄さん。今から化粧水つけたって、あなたは僕には敵いませんから。あきらめた方がいいですよ」



 パパは、シンタローがサービスおじさんのコトばっかりだから、ごきげんナナメなの。
 しっと、しまくりなの。
 わかりやすいパパなの。
 でも、シンタローは、サービスおじさんが好きだから、しょうがないの!
 それでも、パパ、しつこくって。
 どっちが好きかって、うるさいんだよ。
 そんなしつもんに、シンタローはこたえるひつよう、ありません!
 だから、あっちいってってゆったら。
 こんどは、しょんぼりしすぎなの。
 んもう。
 こどもみたいでカッコわるくて、シンタローはますますサービスおじさんが、カッコよくみえるの。
「さぁ、シンタロー。行こうか」
「うん!」
「シ、シンちゃん……パパ、泣きそう……」
 シンタローとおじさんが、おててつないで、あるいていくのを。
 パパは、ずっと、かなしそうに、みおくってたよ。
 シンタローがふりかえったら。
 まだ、みおくってたよ。
 パパったら。
 だから、ぎゃくこうか、なの!
 あたまわるいの。
 あのね。
 パパは、おとななんだから、ちゃんとガマンするの。
 今日はいちにち、がんばってガマンするの。
 そしたらね。
 そうやって、いい子にしてたらね。
 そしたら、あしたはシンタロー、パパといっしょにねてあげるよ。



★★★



 今日はまた、グンマがきたの。
 シンタローが、あそんであげてたら。
 グンマが、むしめがね、もってきて。
 おひさまのひかりで、くろいがようし、もやせるんだよって。
 かがくのじっけん、しようって、ゆうの。
 さいきんグンマは、かがくにこってるの。



 おそとでね。
 くろいがようし、じめんにひいて。
 むしめがね、いろいろ、かたむけて。
 おひさまのひかり、あつめてみたよ。
 そしたら、ジリジリ、ブスブスって。
 がようしが、もえだしたの。
 すごい、すごいねって。
 グンマと、ふたりで、うきうきしたけど。
 シンタローのかみと目も、こうやって、もえるのかなあって、ちょっとおもったよ。
 くろいから。



 そのよる、ごはんのあとにね。
 パパにね。
 シンタローは、どうしてくろいかみと目なのって、きいたの。
 あはは。
 パパは、わらったの。
 それはね、シンちゃん。
 シンちゃんがうまれるまえに、パパがそう、かみさまにおねがいしたからだよ。
 だからシンちゃんは、くろいかみと目なんだよって。
 そんなことゆうの。
 パパはひどいの。
 じぶんが好きだからって、かってにかみさまにおねがいしたの。
 わがままなの。
 シンタローは、みんなといっしょな、きんいろのかみがよかったの。
 あおいめが、よかったの。
 きんいろのかみが、好きなの。
 あおいめが、好きなの。
 だから、パパ、ひどいって、たくさんないたら、ごめんねって、たくさんゆわれて。
 どうしたら、パパをゆるしてくれるのって、きくから。
 シンタローが、なおしてくれたら、ゆるしてあげるよって、ゆったら。
 それは、なおすとか、なおさないじゃなくて、シンちゃん、そのかみと目、かわいいからいいじゃないって、パパがゆうから。
 おまえのいろは、ひかりをあつめるいろだよって、パパがゆうから。
 パパがそうおもってたって、シンタローは、いやなのって、ゆった。



 そしてね。
 なんで、パパはそんなにくろいかみと目が好きなのって、きいたら。
 だって、くろいろって、シンちゃんのいろだからって、ゆわれて。
 それはシンタロー、ヘンだとおもったの。
 くろいろが好きだから、シンタローのかみと目をくろくしてくださいっておねがいしたって、さっきパパはゆったのに。
 でもシンタローのいろだから、くろいろが好きなんだって。
 ぎゃくになってるの。
 ぜったい、おかしいの。
 だから、シンタローは。
 パパ、うそついてるって、おもったの。
 きっと、パパは、シンタローに、うそついてるの。
 ひとつ、うそっておもったら、みんなあやしいの。
 でも、みんなうそだったら、パパがシンタローを好きだよっていうのも、うそってことなの。
 それはダメなの。
 だから、シンタローは、ぜんぶ、ほんとって、おもうことにしたの。
 もう、そう、きめたの。
 だから、シンタローのかみがくろくて、目もくろいのは、パパのせいなの。
 パパ、さいてぇ。
 それに、このさいだから、また、ゆっちゃうけどね!
 パパ、シンタローのこと、かわいいってばっかり、ゆうでしょ?
 シンタローは、かわいいより、カッコいい子なのって、いっつもゆってるのに!
 パパは、そこんとこ、わかってないの。
 にぶいの。
 パパはひどいから、せきにんとって、シンタローのゆうことをきくの。
 だから、今日はお仕事、いかないでほしいの。



★★★



 むかしね。
 どうしてパパはお仕事するのって、きいたこと、あるよ。
 そしたら、せかいいちになるためだって。
 パパが、それにいちばん、ちかいばしょにいるんだって。
 パパ、せかいいちの、はおう、になるんだって。



 今日、パパはお仕事いったまま、かえってこないの。
 こんばん、かえってくるよって、ゆったのに。
 そとはあらしで、風がびゅうびゅうふいてて、まどをばしばしたたいてるの。
 シンタローはカッコいい子だから、こわくないけど、パパがしんぱいなの。
 パパ、こわがりだから、こわくないかなって、おもうの。
 いっつも、風がふくとね。
 シンちゃん、パパこわいよって、もうふのなかに、もぐりこんでくるんだよ。
 やれやれなの。
 しかたないからね。
 今日もね。
 シンタローは、もうふをあたまからかぶって、パパをまっててあげてるの。
 ねむいけど、パパがきたら、かわいそうだから。
 しかたないから、まっててあげてるの。
 でも、その日、シンタローはあそびすぎちゃって。
 つかれちゃってて。
 だから、いつのまにか、ぐっすりねちゃってて。
 シンタローは、あさ、かぜのおとで、ハッと、目がさめて。
 まわりを、きょろきょろさがしたけど。
 パパ、となりにいなかったよ。
 パパのお仕事。
 シンタローは、大きらい。



 むかしね。
 シンタロー、どうしても、パパにお仕事、いってほしくなかったから。
 すごく、ないて、わがままゆったこと、あるよ。
 いかないでって。
 それでもパパは、さいごはお仕事、いっちゃったけど。
 かえってきたらね。
 シンちゃん、おいでって、ゆうんだよ。
 パパといっしょにおいで。
 すてきなもの、みせてあげる。



 ほら。
 シンちゃんの国だよ。
 そうゆって、パパは。
 ヘリコプターから、シンタローに、その国をみせてくれたの。
 きんいろ、だった。
 どこまでもどこまでも。
 きんいろ、だった。
 じめんに、おりたら。
 そのきんいろが、ひまわりのはなだって、わかったよ。
 ねーえ、シンちゃん。
 パパがゆうの。
 ひまわり好きだって、言ってたよね?
 だから、この国、ひまわりの国にしたんだよ。
 ついさっき、パパのものにしたばかりなんだけどさ。
 ぜんぶ、シンちゃんの好きな花で、埋めたんだ。



 シンタロー、ひまわり、好きなの。
 だって、つよい花だから。
 それで、きんいろだから。
 きんいろをみると、シンタローは。
 むねが、きゅっとなる。
 それは、きっと、好きってことなの。
 だから、シンタロー、ひまわり、好きなの。
 ひまわりの国は、とっても、きれいだったよ。
 あおいそらのした。
 どこまでもどこまでも。
 きんいろで。
 きれいだった。
「どうだい、シンちゃん。綺麗だろう! シンちゃんのために、パパはこの風景を作ったのさ!」
 パパは、とくいなかお、してるの。
 シンちゃん、ほめて、ほめて! って。
 そういうかお、してるの。
「パパ、この国、シンちゃんにあげるよ! 私のものは、みんなお前にあげるよ! ぜんぶぜんぶ、あげちゃうよ!」
 そんなパパのかみも、きんいろだった。
 そらとおなじいろの、あおいめだった。
 きんいろと、あおは、パパのいろ。
 パパが、いっしょうけんめいなのが、わかったから。
 シンタローは。
 ちいさく、うんって、ゆったの。
 でもね。
 その国には。
 にんげんが、ひとりも、いなかったよ。
 いちめんに。
 きんいろの花だけが、かぜに、ゆらゆら、ゆれてた。
 だから。
 シンタローは。
 かなしく、なった。



★★★



 パパが、お仕事からかえってきたの。
 やくそくから、みっかも、おくれたの。
 シンタローは、おこってるから、口きいてあげなかったけど。
 でも、お仕事がわるいんだから、ちゃんとさいごに、パパをゆるしてあげたよ。
 あのね。
 パパは、ながいお仕事から、かえってきたときはね。
 いつもの、ばいくらいに、シンタローにやさしいんだよ。
 それはもう、すごいことなの。
 だからシンタローも、ばいくらい、パパにやさしくしてあげるんだよ。
 それにね。
 こんどは、おみやげに、ワンコのぬいぐるみ、かってきてくれたの!
 ほしかったやつなの!
 だから、ゆるしてあげるの。
 でも、パパが。
 パパのいないときは、このワンコといっしょに、ねてねってゆうんだよ。
 しつれいしちゃうの!
 それはぎゃくなの。
 パパこそ、シンタローのいないときは、ぬいぐるみ、ひつようなクセに、なの。
 そうゆってやったら、じゃあシンちゃんがいないときは、じぶんでつくろうかなって。
 シンちゃんにそっくりなの、つくっちゃうんだ。
 びっくりするくらい、うんと、かわいいのをね!
 たくさん、たくさん、つくっちゃう!
 やけに、はりきってるの。
 おさいほう、じょうずなパパなの。
 それでね。
 なかなおりだよ、って、パパがゆうから。
 シンタローは、ひみつのばしょ、パパといっしょにいきたいって、おもったの。
 パパがいないときにね。
 グンマと高松がきて、おしえてくれたの。
 グンマの好きな鳥が、たっくさんとんでくる、みずうみがあるんだって。
 わたりどりのきせつ、だって。
 その鳥、せかいじゅうを、たびしてるんだって。
 すごいね!
 パパといっしょだよ!
 パパ、どうぶつ、大好きだから。
 だから、シンタローは、その鳥、みせてあげたいって、おもったの。



 パパは、ムリだよって、ゆったけど。
 シンタローは、どうしてもいきたくて。
 いかなきゃ、なかなおりしないって、ゆったの。
 だから、いっしょに、パパと車で、みずうみにいったの。
 とおくからみたら、すっごくいっぱいの、白い鳥が。
 水あび、してたよ。
 そうがんきょうでみて、わくわくしたよ。
 シンタローは、うれしくなったよ。
 ひとりではしって、ちかくまでいって、草のなかにガサって、かくれたよ。
 鳥、すっごくかわいいの。
 はねが、とってもきれいなの。
 くちばしが、つるんって、してるの。
 ばしゃばしゃ、あそんでるの。
 こんなの、パパは、みないなんて、ダメなの。
 だからシンタローは、車でまってるパパを、ひっぱってきたよ。
 ムリだよって、またパパはゆったけど。
 いいからって、シンタローは、ぎゅうって、パパの手をひっぱったの。



 そしたら。
 シンタローとパパが、ちょっとちかづいたら。
 さっきのシンタローより、ずっととおくだったんだよ。
 でもね。
 ばさばさばさって。
 はねのおとが。
 ざあああああって。
 水しぶきのおとが。
 みずうみから。
 鳥がいっせいに、とんでいっちゃった。
 おそらに。
「……ごめんね、シンちゃん。パパ、動物には……特に野生の動物には、あんまり好かれてなくって」
 とんでいった、いっぱいの鳥を見ながら。
 パパが、そう、ちいさくゆったの。
 ……。
 パパは、どうぶつ好きだけど、どうぶつにはきらわれてるの。
 シンタロー、そのこと、しってたよ。
 パパに、なでられると。
 おうちでかわれてるワンコは、しっぽがおしりのあいだにはいって、おそとのどうぶつは、にげちゃうの。
 でもね。
 シンタロー、今日はだいじょうぶかなって、おもったの。
 パパが、とってもやさしかったから、今日はだいじょうぶかなって、おもったの。
 シンタローは、パパのこと、好きだから。
 だから、どうぶつも、今日はパパのこと、きっと好きになってくれるって、おもったの。
「今度、サービスと一緒に来るといいよ。頼んでおくから」
 そうゆった、パパのかお。
 それをみたら、シンタローは。
 ひまわりの国をパパがシンタローにくれたときみたいに。
 かなしく、なった。



 ごめんね、パパ。
 そんな、わらいかたさせて、ごめんね、パパ。
 そのかわりにね。
 シンタローだけは、パパから、にげないでいてあげるの。
 シンタローのかわりの、ぬいぐるみなんて、ずっとつくらなくってもいいよ。
 パパがこわいとき、いつも、いっしょにいてあげるの。
 シンタローだけは、ねないで、パパをまっててあげるよ。
 ずっと、好きでいてあげる。
 ごめんね。
 でもシンタロー、ずっとどうゆえばいいのか、わからなかったから。
 だから、だまってたら。
 パパは、鳥がにげたから、シンタローがおこってるんだとおもって。
 また。
「ごめんね、シンちゃん」
 って、ゆったの。
 だから、シンタローも。
「ごめんね、パパ」
 って、ゆったよ。
 その日、パパ、カレーつくってくれたの。
 すごくおいしかったよ。



★★★



 つぎの日おきたら、すっごく、いいおてんきだったの。
 わーいって、ベッドから、とびだしたら。
 シンちゃん、おはようって。
 パパが、おにわの、キラキラおひさまのしたで、わらったよ。
 そして、ゆったの。
 シンちゃん、パパ、おせんたくしてるから。
 パジャマぬいでね。
 まるまる、あらっちゃうよ!
 ぜんぶ、きれいにしちゃうよ!
 はやく! はやく! それでさいごだよ! って。
 わらって、せんたくもの、パンパンって、たたいたよ。
 しわしわ、のばしてるの。
 おにわでね。
 シンタローのおようふくとか、パンツとか、シーツとかが。
 ひらひら、パタパタ。
 おどってたよ。
 とっても、うれしそうだったよ!
 だから、シンタローも、おどったよ!
 おにわが、おまつりみたいだったよ!
 わあ、シンちゃん!
 んもう、あらうから、パジャマ、ぬいでってば!
 はやくってば!
 そうやって、パパはこまってるけど。
 でも、パパも、すっごく、うれしそうだったよ。
 キラキラのあさって、すてきなの。
 みんながみんな、うれしくなるの。
 シンタロー、おせんたくしてるパパ、好き。
 エプロンしてるパパ、とっても好き。
 せっけんのにおいのするパパ、大好き。



 でもね。
 これからパパ、またお仕事なんだって。
 むっとしたシンタローのかおを、みて。
 パパが、また、こまって、ゆったよ。
「シンちゃん! ほら、今度シンちゃんの誕生日だろう? 遊園地行こう! 遊園地!」
 遊園地はにげたりしないから、パパはいきたがるの。
 ほんとうはシンタローも、いきたいの。
 いこうよ!
 やくそくするから!
 ゆびきりげんまん、って。
 パパが、しゃがんで。
 こゆびをだしたよ。
 でもシンタローは、むっとしたままだったの。



 パパは、お仕事、大好きなの。
 パパは、はおう、なの。
 せかいいちに、なるんだって。
 でもね。
 パパは、わかってないの。
 お仕事いくから、パパは、シンタローのせかいいちに、なれないんだよ。
 パパは、シンタローより、せかいのほうが、大好きなの。
 お仕事で、いっぱい……
 シンタローの、しらないことを、してるの。
 だから、シンタローは。
 そんなパパは、シンタローのいちばんにはしてあげません。
 いつか、きづいて。



 それでね。
 シンタローは。
 ゆび、のばしてる、パパをおいて。
 ぱあって、かけだしたよ。
 ほらね。
 かってにパパが、やくそく、しようとするからこうなるの。
「シンちゃん! 待ってよ! ゆびきりげんまん、しようよ!」
「やだよー!」
「じゃあ一緒に仲良く、おせんたくしようよ! あらうから! さっきからパジャマぬいでって、言ってるでしょ!」
 だってパジャマぬいだら。
 パパ、さっさーって、おせんたくしちゃって。
 お仕事、いっちゃうじゃない。
「パパー! ここまでおいでー」
「ああもう、シンちゃんてば、かけっこ早いんだからっ!」
 キラキラのひかりのなかで、おせんたくものが、ひらひらするなかで。
 せっけんの、においのなかで。
 シンタローとパパは、また、おいかけっこ、したんだよ。
「パパー! こっちだヨ、こっち!」
「シンちゃん、待ってよ!」



 ずっと、追いかけてきてね。
 そういう、ゆびきりげんまんだったら、してもいいよ!
 だって、そうでしょ。
 パパは、シンタローがいないと、ダメなんだから。
 シンタローがいないと、さみしくて、泣いちゃうんだから。
 そうやって、みんな、ほっぽりだしちゃって。
 バタバタってシンタローを、がんばって追いかけてくる。
 こんなシンタローのパパは。
 ……。
 シンタローの、たったひとりだけの、パパだよ!






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