「ん……んく……ぅ」
 息をつきながら、シンタローはそれを咥えている。
 きつきつに口に含んだまま、頭を上下に動かすと。
 相手のそれは勢いづいて力を増し、凶器のようにシンタローを支配し始める。
「ふ、う……」
 苦しくなったので、シンタローはその彼の高ぶりに、頬を寄せた。
 そして、舌を尖らせて、筋を辿る。根元を咥える。そっと吸う。
 見上げると、マジックは優しい目で自分を見つめていて。
 いつもは冷静なその目が、感じたように熱い光を湛えていて、その酷薄な唇が、静かに溜息をつくのが、わかった。
 やっぱり嬉しくなって、シンタローは熱心に舌を使う。
 そしてもう一度、ますます大きくなったそれを、口を大きく開けて、先端から縦に含んだ。
「く……ふっ……」
 息を乱しながらも、できるだけ深くまでそれを咥え込もうと努力する。
 咳込みそうになって、堪える。喉が震えた。
 やっぱり苦しい。
 でも。
 涙を目尻に滲ませながらも、シンタローは相手に少しでも快楽を与えようと、必死だった。



「ん……」
 ふわっと慈しまれる感覚がして、マジックの大きな手が、自分の黒髪を撫でてきたのだとわかる。
 豊かな量をしたシンタローの髪を、額からそっと耳の後ろまで、ゆっくり、ゆっくり、何度も何度も。
 飽きもせず、その手は梳いていくのだ。
 静かにうなじに触れられて、シンタローは喉奥から、小さく熱い息を吐く。
 産毛がなびいた。
 心地よくて、仕方がなかった。
 自分の額に、首筋に滲む汗が、その手に拭われていくのが、嬉しかった。



 それに。
 俺、上手く出来てる。
 そう、思っていたのに。
 今度はその手が、邪魔をしてきた。
 手が首筋をつたって下に伸びてきて、シンタローの軍服の胸元に入り込み、乳首をくりくりと弄び始めたのだ。
「ふ……あ、あぅ……」
 咥えながら、シンタローは眉を顰める。
 唾を飲み込み、喘いだ。
「さ……さわるなって……」
 シンタローの睨む瞳にも、咎める声にも、相手は動じなかった。
 大人しくしてろって言ったのに。
「だって。この角度だと、ちらちら見えるんだよ。赤い軍服の襟の隙間から……綺麗なピンク色が……扇情的な光景だ」
「や……やだって……さわるなぁ……ん……」
 長い指が、しきりにシンタローの硬い突起を押し潰す。
 しかし芯を持ったそれは、押されても撫でられても、また、つんと立ち上がることを繰り返してしまう。
 嫌がるシンタローが身をよじっても、執拗な指はそれを許さず、追ってくる。
 なめらかな肌に吸い付いてくるように。
「やっ! あ……ふっ……」
 その内、マジックが目を細めてこんなことを言い出してしまう始末で。
「シンタロー。でも触られて嬉しいでしょ。この乳首はお前と一緒だね。触れば触るほど、ツンツン尖っちゃって。パパの指を、押し返してくる。でも本当は感じて、喜んでいるんだ」
「か……勝手に解釈、すんなぁ……あっ……」
「お前もここも、敏感すぎて、私は楽しくって仕方がない」
「んんっ……うぁ……」
 強くその突起を指で挟み込まれて、シンタローはビクリと腰を震わせた。
 電流のような甘い痺れが、じんじん背筋を伝わって、胸から腰の中心へと流れていくのだ。
 シンタローは思わず腰を大きく振ってしまい、マジックの視線を感じ、慌てて止めた。
 しかし快感に緩んでしまった最奥からは、またあの甘い液体が零れて、腿を静かに伝い降りていく。
 その生暖かい感覚。
 鋭敏な乳首への刺激。
 口内に熱く満たされる雄の脈動。
 その全てが入り混じり、複雑な責め苦となって、シンタローを悩ませる。
「あ……くぅ……っ」



 下半身にある。
 シンタローの中心は、とっくの昔から疼いていた。
 それに対しても、マジックはいやらしげに言及することを忘れない。
 言葉でシンタローの感度を高めていくのだ。
「胸もそうだけれど。お前の、そこね。興奮して立ち上がって。ずっと、軍服の裾から、これもちらちら見えているんだ。私を誘うようにね。どうして嫌がっていても、同時に私を誘うのかな、お前は。もうこれは天性だね。お前は最初から最後まで、私を誘うように出来ているんだよ、シンタロー……」
「……っ……やっ……だ、だまれって……ぇ……! や、やめ、やめるぞ、これ……っ!」
 熱い先端を咥えてふうふう言いながら、シンタローはマジックに抗議する。
 喋るために口に空気を入れると、すうっと唇の端から首筋にかけて、唾液が零れ落ちていく。
「ん……ふ…………ひゃっ!」
 それを感じていたら、急に半端に咥えていた太いものが、シンタローの唇から抜けて、その頬を打った。
「なっ! う、動くな! 指もそうだけど……大人しくしやがれ……!」
 性器にまで腹を立てるシンタローに、マジックは呆れている。
「これも仕方ないだろう。動くんだから」
「うっさい……! 口もアンタは、う、動かすなっ。どこもかしこもジッとしてやがれ……あ、やっ……指、ヤだって……お、俺の言うコト、聞けよぉ……っ」
 どれだけ文句を言っても、胸への刺激は増すばかりだ。
 交互に引っ張られ、シンタローの語尾は情けない声に変わる。
「だから仕方ないんだって。お前がお前である限り。私は触りたいんだよ」
「くっ……あ、うう、う……負けねぇ……っ! 俺は、負けね……あっ」
「負けず嫌いなのは結構だけれどね。その分だけ、そそる」
「ん……っ」



 それでも、シンタローは頑張った。
 頑張って、口でマジックのそれを咥え続けた。
 しばらくして、胸を悪戯していた指が、また頬を撫でてくるまで。
 その時。
 意外にも、彼はこう言ったのだ。
「ありがとう。シンタロー。もういいよ」
「……なっ……ん……ヤだっ! もっと、最後までする……ふ、あ、あと、もう少し……」
「それでもいいんだけれど。もうお前の方が限界でしょ」
 意地になって、深くまで頬張ろうとするシンタロー。
 俺は最後まで、こいつをイかすんだと、彼はイヤイヤと首を振って頑張った。
 折角ここまで、努力したのに。
 しかし、自分の肩は強い腕で掴まれて、ゆっくりと抱えあげられた。
 なすすべなく。
 足をばたつかせても。
 再びシンタローの身体は、マジックの膝の上に向かい合う形で座らされてしまう。
「くっ……」
 自分の下半身が限界なのは、事実だったのだが。
 やっぱり、俺はヘタだったのか、と顔を歪めるシンタローである。
 だから。途中で、やめされられて。
 俺じゃやっぱり……無理……
 しかしマジックはその鼻先に小さく口付けて。
 どうしてかその考えを読んだように、『上手だったよ。でもね。もう、今からは二人でしようね』と囁いたのだ。
 そして微かに首を傾けて、壁時計の方を見やっている。
 つられて、シンタローもそちらを見た。
 その長針と短針は、『12』のローマ数字で重なろうとしていた。
 0時。もうすぐ、明日になる。明日という日。特別な日。
「父の日は。お前が欲しい。二人で過ごしたい」
 額をこつんとぶつけられて、間近でそんなことを言われて、シンタローはどぎまぎしてしまう。
 そして、相手はこう続けたのだ。
「馬鹿な子だね。上手くたって、下手くそだって、本当の所は、どっちでもいいのさ。お前がいいんだよ。お前なら、何でもいい」



「は……う……」
「力を抜いて……何度しても慣れないね。またそれが初々しくって、」
「黙ってろって……ぇ! く……んんっ……」
 シンタローは、ベッドに腰掛けたままのマジックの上で、その場所に自分で迎え入れようとしている。
 膝立ちになり、屹立したその上に、腰を下ろそうと試みている。
 ぴくんと。
 自分の最奥に、先程まで口で咥えていたばかりの、自分の唾液で濡れそぼった熱く硬いものが触れて、思わず背中をのけぞらしてしまった。
 黒髪が揺れた。
 入れる時には。
 どうしても本能的な怯えが出てしまう。
「く……っ」
 それを振り払い。髪を煩げに振り。
「ん……あ、ああ……」
 シンタローは、ゆるゆると腰を落とす。
 力を抜いて、先端をその入り口に迎え入れると、ゆっくり、ゆっくりと、それは沈み込んでいく。
「くっ」
 その場所から、自分の中に熱が広がっていって、先端が入ったことがわかる。
 シンタローの中は、すでに散々いたぶられた後だったから、マジックのそれをすんなりと咥え込んだ。
 その入り口はひくひく蠢き、その大きさに緊張し、内壁が、もっと奥へ、奥へそれを咥えようとざわめいている。
 でもまだ巨大なそれの根元までは、入れることが出来ない。
 だが内壁の欲望に素直に従うのにも、やはり恐怖感が消えなかった。
 本当の最奥。
 一番収まりのいい、覚えている場所、一番深い所、一番、熱の溢れる場所は。
 まだ遠い。
 自分の核心に、まだ相手の熱が届かないのだ。



 シンタローの腰は、半ばまでそれを含んだ所で止まり、太腿が中途半端な体勢に、突っ張って震えた。
 黒い眉の上、額から、玉の汗が落ちたのを。
 マジックが撫でるように、指でぬぐった。そして言う。
「大丈夫? シンちゃん」
「う……だい……大丈夫……だからっ!」
「私がやろうか?」
「いい! いいんだよ! じっとしてろっての!」
 こう言われると、無理なことでも、やらずにはいられないシンタローである。
 俺。俺、頑張れ! ちょっといや、かなり痛いけど! 怖いけど! 俺! 俺! 俺が大丈夫って言っちまったからには、大丈夫ってとこ、見せなきゃなんだよ!
 今日は、俺がやるんだ。
 そう必死に自らを鼓舞してから。
 シンタローは、息を吸って。そして止めると。
「……くっ……あ、あ、ああああっ……!」
 思い切って、一気に腰を落とす。
 その瞬間、身体の中に太い杭が打ち込まれたような、そんな灼熱感がシンタローを包んで、目からは涙がまたその衝撃で溢れた。
「ああ……あ、は、はぅ……」
 背筋が震え、網膜がチカチカ点滅して、シンタローは上を向いて喘ぐ。
 マジックの手が、その突っ張った太腿、背筋を撫でてくるのを感じている。
 どきどき、どきどき、と心臓が高鳴って、びくびく、びくびくと背筋が緊張して震えた。
 自分の性器は、強い刺激に天を向き、液を漏らす。
 しかし、その迎え入れた強烈な衝撃が、何とか収まった時。
 馴染みの場所まで、それが嵌め込まれた時。
 シンタローにあったのは、満足感だった。



「……へへ……」
 汗に塗れた顔、潤んだ瞳をしているのに。
 シンタローは、どうだ、という顔で、すぐ近くにあるマジックの顔を見た。
 その得意そうな顔に呆れたのか。
 彼は青い瞳で、くすくす笑い出した。
「あ、あんだよ……何、笑ってんだよ……」
 ちょっと達成感を傷つけられて、シンタローはまたムッとした。
 でも相手はとても嬉しそうだ。
「まったくお前は……気が強いね。そんな所、好きだよ。愛してる」
「……んっ……」
 身の内でマジック自身が小さく動いて、シンタローは鼻にかかった声を出した。
 しかし、ますます負けん気が湧いて、入れただけで終りじゃない、これからも勝負だ! と思い直して。
「う……くっ」
 シンタローは自分も少し、腰を左右に動かしてみた。
 自分の粘膜がひきつれて、切なく悶えたが、それでも頑張った。
 するとマジックが息をついて、その息が自分の首筋にかかって、それがとても熱かったので。
 シンタローは、やったと思い、相手も感じているんだと思い、何だか嬉しくなったものの、だんだんとそんな余裕が自分になくなっていくのを感じている。
 頭で考えて、何かをするということ自体が、難しくなりかけていた。
 でも、でも、俺は、とシンタローは必死になって、今度は腰を、小さく上下に動かしてみた。
「あっ……はぅ……うっう……」
 溜め息のような吐息が断続的に自分の口から漏れて、内壁が相手の形に合わせて収縮して、擦れて、さらに頭の天辺から爪先までを、痺れが伝っていく。
 奥が。
 ずっと、届かなかった奥が。
 埋まったと、シンタローは感じていた。
 その場所が、全ての原因のその場所が、今はぴったりと埋められていた。
 マジックが、入っている。俺の一番奥まで。入ってきてるんだ。
 甘い痺れは絶え間なくシンタローの最奥、ずっと物欲しげに疼いていた所から、間断なく泉のように溢れ出していて、どうしようもない充足感が、身体を支配し始めている。
 熱い。とろけそうに。熱くてたまらない。
 もどかしい。もどかしくって、泣きたくってたまらない。
 そんな動物に還っていくような自分を感じている。
 しかし、先刻と違うのは。
 単純な快感だけではなく、この熱は安心感や癒しにも、繋がっているようにシンタローには思えてならなかった。



 シンタローは、ゆるゆると腰を自ら動かしている。
 額を相手の肩に、こつんとぶつける。
 甘い律動の中、頭がぼうっとし始めて、おぼつかなくなって、意識の片隅でシンタローがマジックの肩に噛み付いた頃。
 噛み付いた肩は、冷たい汗に湿っていたのに。
 相手は突然、平気でこんなことを言ってきた。
「シンちゃんたら……練習しなくたって、下の口はすっごく上手なのにね」
「……っ!」
 また雰囲気を台無しにするかのようなことを。
 シンタローの意識が、一瞬クリアになる。
 ぐっ、まったくこの男は! なんてことを言う、と。
 シンタローは、ますます噛み付いた歯に力を込めたが、相手はこたえる素振りすらもない。
「今は意識がなんとかあるみたいだから、言うんだけれど……安心してね。これから、意識が飛んじゃうだろうシンちゃんは、凄いんだから! 自分では覚えてないかもしれないけど。もう焦点の合ってない目で、自分でどんどん動くし、舌伸ばしてくるし、中はきゅうきゅう締め付けてくるし、脚は絡めてきてパパを催促するしで、もうすっごい……」
「う、うわああ! 言うな! ンな恥ずかしいコト、言うなぁ……!」
 聞いてられなくって、シンタローは身をよじったが、そのせいで相手を締め付けてしまい、『あん……っ』と露骨な声をあげてしまった。
 ぐ……
 ンなこと、どーして言うんだよ! しかもこの瞬間に! とシンタローは、相手のデリカシーの無さに腹を立てたものの。
 同時に。
 俺、寝っ転がってるだけじゃなかったのか!
 マグロじゃなかったんだ!
 と、妙な嬉しさと納得のいかなさを感じていた。
「……」
 とりあえず。
 とりあえず、自分は何か文句をこの男に言ってやりたいと思った。
 自分と繋がっている男。
 マジックは何食わぬ顔で、その広い胸をシンタローの胸にぴったりつけて、自分の耳朶に吸い付いてきた。
 その腕でシンタローを強く抱きしめている。
 その感触。逞しい腕。



「そうだ! 俺! 今日一日中、く、薬の! アンタが塗った薬のせいでっ! ヒドイ目にっ! 今もっ……今も、俺……」
 蕩けそうにになりながらも。
 必死で、謝らせること其の一、を思い付き、シンタローはつい大声を出してしまう。
 これは謝らせなければ気が済まない。そうだ。良かった、思い出したぜ!
 と、シンタローが、勢い込んで言ったのに。
 しかし。
「一日中? はは……シンちゃんったら」
 そう言ってからマジックは、シンタローの耳朶を唇で引っ張り、柔らかいそれを舌で撫でている。
 ぞくぞくと甘美な刺激が肌をつたわって、シンタローをまた喘がせた。
「あれだけの少量の薬に、そんなに持続力がある訳ないだろう。だいたい、一日中持続力あるようなそんな強力な薬、パパはお前の体が大事だから、使うと思う? それぐらいは信用してほしいな! せいぜい数時間……まあお前が団員の前で訓示をした時間ぐらいまでしか、効き目なかったんじゃないかな。だから特に家に帰ってからとか、今は」
 いけしゃあしゃあと。
「!」
「まあ、この部分は肌が弱いから、ちょっと腫れだけが長引いちゃってるみたいだけれど……粘膜は吸収もいいが、効き目がなくなるのも早いから」
 そしてマジックの指が、結合部に伸びて。
 太いそれを咥え込んで、きつきつになっている粘膜に、さらに指を無理矢理入れて、刺激した。
「やっ……あふ……っ」
「ここが、ずっとね……お前の一番奥が疼いてたまらないのはね……お前が純粋に、私を欲しがっているからだよ。今日は私に入れて欲しくって、たまらなかっただろう? ずっと私を感じていただろう? それはね。薬のせいなんかじゃなくって。お前が私を欲しがっているからさ……」



 マジックは、急に両手でシンタローの腰をぐいっと持ち上げて。
 下から、ズッ! と激しく突き上げた。
 シンタローは急なその動作に、身も世もなく大きく喘いでしまう。
 ゆっくりの動きから、激しい動きへ。
「ああああっ……!」
「じゃあお喋りはこのくらいにして。楽しもうか」
 ま、待って!
 俺……俺っ……! 『謝らせること其の一』しか言ってない!
 其の二はっ! 其の二は……ぁ……あ……ああああ!
「あっ、あっ、あっ……う、うそっ……! ヤ、ヤだ……あ、あ……」
 自分の腰が相手の手で揺らされて、荒々しく下から突き上げられる。
 律動は激しさを増す。世界が振動している。
 繰り返される動き。貫かれて引き抜かれ、また貫かれる。その動き。
 その激しさに、全てが満たされていく。世界が塗り潰されていく。
 そして繰り返される言葉。甘い。熱い……
「お前の中は、とても熱い……火傷しそうだ、いや、もう一生、私はお前に焦がれて焼き尽くされているのさ。お前もそうだといいのだけれど……」
「あ……ふっ……くぅん……ん、ん、ああん……っ」
「愛してる。シンタロー……」
 シンタローの意識はそれから飛んで、身体はとろとろに溶けて、何が何だかわからない状態になってしまった。



 俺は。
 俺は、と。
 でもシンタローは、快感に支配されてた頭の、小さな小さな隙間で、微かに思う。
 俺は熱に焼かれるというより。溶けてしまうんだよ。
 アンタに溶ける。
 そしてそれは、アンタもそうなんだと、いい。
 最後に、シンタローはこう自分が叫んだのを聞いた。
 アンタも、俺と同じ気持ちだったら、いいって。
 ……
 俺さ。
 これから、どれだけの間、一緒にいられるのか、わかんねーんだけど。
 ……俺、その間は、アンタに飽きられないでさ。
 少しでも、アンタと長く一緒にいたいって……
 ホントは、ずっと、考えてる……
 かもしれない、し。かもしれない。
 ……きだよ……
「……父さん……っ」



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 翌日は。
 翌日は、休みだったのだ。
 父の日で。よく空は晴れて。絶好の休日。
 しかし。
 シンタローは、お腹を壊して、寝込んでしまったのであった。



「く……」
 シンタローは自室で毛布を被りながら、従兄弟たちに散々な言われようだった。
「シンちゃん、アイスキャンディー食べすぎなんだよっ」
「そうだぞ、シンタロー! 何事も中庸が肝心だ! それなのにお前は! 今日がたまたま休日だったから良かったものの、総帥の自覚というものを! とにかく食べすぎはよくない、」
「いっつも僕が、お菓子食べてたら、『ガキっぽいから、そろそろ卒業しろ』とか言うクセにぃ〜 ホントはシンちゃんが子供っぽいんだよねぇ えへへ〜」
「いいか、もう一度言う! 食べすぎはいけないのだ! 孔子もかつてこう言ったと聞く! 『過ぎたるは猶及ばざるがごとし』と……」
 どう考えたって、と。
 シンタローは、シーツをぎりりと噛んだ。
 マジックのせいじゃねえか!
 あいつが、アイスキャンディーで、俺を……俺を……でも、ああああっ!
 そんなコト、こいつらに言えやしねえ!
 俺のせいかよ! 俺のせいかっ!
 あの後、マジックが階下で作ってきたリゾットに、何か入っていたのかもしれないとも、シンタローは悔しく思ってみるが。
 何より腹が立つのは。
 当のそのマジックが、従兄弟たちの側で、にこにこ笑っていることで。



「お前たち、そろそろ許しておやりよ。シンタローは昔からアイスキャンディーが大好きでね! そうだ、グンちゃんも大好きだった。昔、作ってあげたよね。よーし、じゃあこれから腕を振るって、私がお菓子でも作ろうか! 父の日のお礼にね! キンタローが食べたことがないようなものを!」
「わあ〜い
「有難く頂きます」
「ア、アンタのお菓子はもうたくさん……だっ……だああっ!」
 シンタローは腹痛に、体を折り曲げて腹を押さえた。
 とばっちりを受けるのは、どうして俺ばっかり。と。
 涙目になりながら。
 シンタローは、自分の運命を呪ったのだ。
 父の日って。
 マジックが、ひたすらいい思いをする日だったんだなあ……
 俺の日ってないのか。俺の日って。
 そう思うとシンタローは、やっぱり俺も世界征服をして、新しい休日を作った方がいいんじゃないのかと、ちょっぴり悪魔の誘惑に乗りかけて、いけないいけないと、首を振ったのであった。



 後日談。
 ガンマ団員たちのシンタローへの忠誠心が高まりまくったが、それと同時に元総帥への反発が強くなった。
 しかしそんな素振りを見せれば即抹殺されそうなので、完全匿名のアンケートでしか数字に表れないのであった。
 ちなみに。
 突然に狭い場所が爆発した時は、見なかった振りをするのが、団員の間の不文律である。
 その度に、彼らは悔し涙を流すのだ。



 もう一つ。
 シンタローが遠征に出た時に、こんなものがバッグの中に入っていた。
 ビデオテープ。
 『これがシンちゃんが上手な証拠だよ。あと、練習するならパパの技を見て練習すること』と不吉な付箋が貼られた、それが。
「……」
 どうしても気になりまくったシンタローは。
 ついにそれを60型の超巨大画面で見てしまって。
『あっあっあっ、父さ〜んっ!』
 思わず自室を爆発させて、それが飛空艦で高度3000メートルの空を飛んでいた時であったから、飛空艦が墜落しかけたことは。
 それも見なかったことにされた、出来事である。
 夢のアダルトビデオ、ガンマ団の生ける伝説。
 なんだかんだで、二人を中心に、世界が回っている、らしい。
 マジックとシンタロー。
 二人の怪。











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