熱い手

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 鐘が鳴る。
 午前の授業が終わり、教科書を胸に抱えて立ち上がったシンタローの側に、金髪の少年が寄ってきた。
「シ、シンタローさん! 一緒にお昼食べていいだべか?」
 同級生のミヤギはよく自分にこう聞いてくる。
 二回に一回は一緒に昼食を取っているのだから、別に毎度わざわざこういう聞き方をしなくてもいいのに、と思うのだが。
「いーよ」
 自分が食堂に向かって歩き出すと、後ろからパタパタ付いて来る足音が聞こえた。
 ミヤギと、そしてトットリ。
 いつものヤツら。



 どうしてか今年の士官学校新入生には、日本人が多い。
 偶然だよ、とやけに最近、生徒集めに凝っているらしい人間は言っていた。
 でもまあ、これからはアジアの時代だから。軍の中枢部にも東洋人を入れていかないとね、とか何とかかんとか。
 ……別に、いーんだけどさ。
 シンタローとしては、何となく周囲に自分と同じ黒髪黒目が多いなあ、と思うぐらいだ。
 もっとも混血が進んだ現代では、この金髪のミヤギのように国籍と外見のイメージは、必ずしも一致するものではなかったが。
 ミヤギを見て、シンタローは思う。それとも実は染めてんのかぁ? コイツ。
 ……自分は。
 実は、日本出身の生徒とは、少しだけ話が合い易い。
 シンタローはその幼少期を、日本で過ごした。今でも懐かしく思い出す。
 ――日本。
 甘い記憶。
 あの家。
 揺れる白いカーテン。
 壁時計。
 そうだ。春になると、庭に桜が咲いて、とても綺麗なのだ……。



「待っちゃりいシンタロー! ぬしらワシを置いていく気かのぉ?」
 ばたばたばたっと慌しい音がしたかと思うと、4歳年上のコージが、いきなり廊下を歩く自分の前に立ち塞がり、ニヤリと笑った。
 その長躯。堂々とした押し出し。同級生の内では珍しく、自分を呼び捨てにする男。
 入学式も早々に、校内のプールで巨大錦鯉を放して、叱られているのには驚いた。
 結局、寮の裏に自力で池を掘って、そこで飼育しているらしい。
 何かと規格外の男だ。野球選手を目指していたと聞くが、何の因果かこの士官学校に入ることになったのだという。
 以前に何気なく、その理由を聞いたら、ぬしにゃあ教えたくない、とムッとした顔をして黙り込んでしまった。
 それならそれで別に知りたくもねぇ、と自分もムッとし、二人にはしばらく微妙な時期があった。
 一度あの錦鯉に――そもそもアレは魚なのだろうか――エサをやってみたいとシンタローは思っていたが、年上の彼にガキ臭いと思われるのも嫌なので、頼みそびれている。
 アレ、値段はいくらぐらいすんだろ。どーやら高いらしーけど。
 コージの、ぱっくり竹を割ったような性格は嫌いではないし、確かにイイ奴だとシンタローは思うのだが。
 しかし大人しく後ろに付いてくるタイプではないので、ミヤギやトットリと違って、何となく扱いにくい。
 年少の二人が扱いやすい後輩タイプなら、年長の彼は、置き場所が面倒な先輩タイプだった。



「……でなぁ、試験も終わったコトじゃけん、ワシぁ、いっぺん様子を見に行っちゃろうと思ってのォ」
 食堂で、好物だという、うどんをズルズルと啜りながら、そのコージが喋っている。
 話題になっているのは、これも入学早々に事件を起こした同級生のことだ。
 どこか抜けてはいるが、兄貴肌で親切心旺盛なコージは、色んな人間を気にかけてやっているようだ。
 袖擦りあうのも肩ぶつけるのも、多少の縁! つぅてなァ。
 等と彼が喋る度に、うどんの汁がこちらに飛んできたりするのは、頂けない。
 ……アラシヤマ。
 ちょうどこの場所だ。先日建て替えが済んだばかりの、この食堂。
 真新しい柱を見つめながら、シンタローは数ヶ月前を思い出し、微妙な表情をする。
『あっぢーッツ!!!!! 何すんだテメ―――ッ!!! ヤケドしちまったじゃねーかッ! この変態野郎!!』
『わてをだましたんどすなぁ〜〜〜!!! 恨んでやるぅシンタロー――!!!』
 一人で食事をしていたから、俺は親切に声をかけただけなのに。
 訳のわからない因縁をつけられたと思っているシンタローだ。
 結局、怒りに燃えたアラシヤマが体から発火し、食堂が全焼する騒ぎが起こった。
 やっとのことで、燃え落ちる建物から脱出した自分たち。
 入学初日からこんな目にあうとは思わなかった。散々な思い出だ。
 その罰としてアラシヤマは未だに独房に入れられているのだが。どうやら本人がいたくその場所を気に入ってしまい、居着いているという話も聞く。
 つくづく、変わった奴のようだ。
 それに――特殊能力。
 あの発火した熱い手。実は、それを目の当たりにし、自分は衝撃を受けた。
 人間が、あんな炎を出すなんて。
 すげー、びっくりした。
 それまでシンタローは、特殊能力というものを見たことがなかったのだ。



 この間の誘拐事件の猫使いやアラシヤマのように、世界には極少数、常人を越える能力を持つ人間が存在するという。
 まあ、それもピンキリらしいがよ。シンタローは目の前の少年に視線を向ける。
 ――トットリ。
 なんか、忍者の血を引いてるって言うけどさ。
 ……ぶっちゃけ……イヤ、まあいいか……まだコイツは13だもんナ、13……。
 その能天気忍者振りは、年齢のせいにして見なかったことにしたいシンタローである。
 この3人とは、つい最近まで大部屋で寝起きを共にしていたのだが。
 ……ぶっちゃけ……イヤ、まあ実害が……コイツに関してはあった訳だ。
 例えば自分が朝、目が覚めると。
 羽の色も鮮やかに。天井に1m50cmはある巨大なツクツクホウシが貼り付いている。あからさまな着ぐるみ昆虫。
「……」
 しばらくすると、ツクツクオーシ、ツクツクオーシ、という声変わりしたばかりの作り声が部屋中に響き渡る。
 関わり合いになるのはイヤなので。
 いつも自分は、昨日はアブラゼミだったな、なんて遠い目をしながら、その物体を無視して洗面所に直行するのだが。
 その日運が悪ければ、ドアの外なんかで『シンタローさんを騙してやったっちゃ!』というトットリの自慢声を聞いてしまうこととなる。
 入学式後はこれがカブト虫だったのだが、本格的に夏が近付いたので、セミのシリーズにバージョンアップしてみたらしい。
 正直なところ、勘弁して欲しい。



 部屋と言えば。先日、自分は大部屋を脱出し、個室に移った。
 発表された定期考査の結果、自分は首尾よくトップを取ることができたのだ。
 張り出された優秀者一覧の前で、『当然スよ』という顔をしていたシンタローだったが、初回の考査だったこともあり、やはり内心は嬉しくてたまらなかった。
 これで気持ちよく朝を迎えることができるという、実際的な喜びもあったりして。
 学校にゃ、イロんなヤツがいるけどよ、とシンタローは思う。
 ……特殊能力なんかなくったって、さ。
 俺は一番になれるんだぜ?
 でもまだまだ、これは通過点にすぎないのだとも思う。
 つーか。ま、当り前のコトなんだろうしな。
 ……一族としては。
『さすがシンタローさんだべ!』とミヤギがまるで自分のことのように、ウキウキしていたのを覚えている。
 やっかみはあるだろうが、他の生徒も『やっぱりな』という目で自分を見ていた。
 しかし自分はある意味、さすが、と言われたくて必死に隠れて勉強に励んでいたはずであるのに、そう実際に言われてみると、足りない、という想いしか胸に残らない。
 まだ足りない。もっと走らなければ、走らなければ、という焦り。
 今も目の前で大騒ぎしている同級生たちと、自分は同じではいけないと思う。
 一緒になって、はしゃいではいけないと思う。
 俺は……一人で……もっと。
 もっと、走らなきゃならない……。



 視界の中の、明るい同級生達。
「でもシンタローさんもドジだっちゃわいや! 右手のヤケドが直ったかと思ったら、すーぐ左手にケガしてるっちゃ!」
 トットリが自分の左手を指差し、楽しそうに笑っている。隣のミヤギが怒っている。
「トットリ! オメ、ンなこと言うんでねーべ! 絶交しちまうべ!」
「ミヤギく〜ん! 絶交はイヤだっちゃ〜! 人気者のミヤギくんに冷たくされたら、ぼかぁ、生きていけないっちゃ〜っ!!」
「なら黙ってるべ。いいがあ、人には事情っづーモンがあるんだべ……」
 今回の誘拐事件については、勿論、公けにされてはいない。体調を崩したシンタローが、数日私邸に戻った、ということに表向きはなっている。
 あの後、余計な心配をしてか遠征から早々と戻ってきたマジックに、改めて暴走について窘められた。
 幼い頃から教えられていたマニュアル通りに、あの場合は大人しく犯人に従い、助けを待つべきであったのだ。
 それが正しいということは理屈としては、わかる。
 しかし助けを待て、と言われても。助けに来る人間というのが問題なのだ。
 ――この世には。
 自分が絶対に助けられたくない人間、捕まった無様な姿を見られたくない人間、というものが存在する。
 意地っ張りで損をすると言われようが、例えそれで失敗して命を落とそうが。
 シンタローにとって、それは譲れるものではなかった。
 それを譲ってしまったら、自分が自分でなくなってしまう。
 だから仕方がないのだ。
 そして、それをわかってくれない人間にも、全部まとめて腹が立つ。



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 放課後。
 何だかんだで結局、シンタローはアラシヤマの面会に付いていくことになってしまった。
『シンタローも行くじゃろォ? よっしゃ! そーと決まれば、ワシの案内にも力が入るってモンじゃけんのぅ!』
『勝手に決めんな……つーかお前はもっと大事なコトに力入れろよ』
『コージは試験の成績、ヤバかったっちゃね〜 でもミヤギくんと並べて羨ましいっちゃ!』
『トットリ……そげな事言うて後悔すっど。日替わり定食に次、オメの好きな目玉焼きが出だら、オラが黄身だけ食っちまうべ』
『ミ、ミヤギくぅ〜んっっ!!!』
 独房棟は、倉庫群から程ない士官学校敷地内の隅にある。
 打ちっぱなしのコンクリート肌が痛々しく、枯れた蔦がその荒れた表面を這っている。
 小山の洞窟を利用したそれは、太陽の下でも、わざと陰気に見えるように作ってあるらしい。
 子供の悪さの抑制力というやつだ。長期入牢者に対しては、週に一度の頻度で面会が認められている。
 他に面会者がいれば、自分たちの面会は制限されるという決まりになっているのだが、アラシヤマに関しては、全くその心配は無用であったらしい。
 入牢してから数ヶ月の間、欠伸をしていた衛兵によれば、ただの一人の面会者もいなかったということで……。
 独房棟内部は薄暗く、蜂の巣のように無機質な小部屋の扉が並んでいる。
 その最奥に、彼はいるというのだが。



「おぉ! おイタして独房に入れられてしもぉた、アラシヤマの部屋はココけぇのぉ?」
「どしたべアラシヤマ、折角このオラが来てやったのに、あいかわらず暗ぇ顔だべな」
「わー スゴいトコにいるがな。僕も、こんな素敵なお部屋に住みたいっちゃ!」
 そんな自分たちに、膝を抱えた入牢者はすげなかった。
「あっちへ行っておくれやす」
 帰れ、の一点張りだ。
「わては一人が落ち着くんどす。お節介野郎はたくさんどす」
 何だコイツ、と思いながら、シンタローは鉄格子の隙間から独房内を覗き込んだ。
 自然の洞窟に鉄格子を設置して牢としている独房は、当然窓もなく、壁のくぼみに小さな明かりが灯されているだけだ。
 淀んだ空気の中で、自分をよくわからない理由でヤケドさせた少年は、何やら陰気にブツブツと呟いている。
「な、トガワくん。まったく、煩そぉてかないまへんわ。これだから人間ってイヤどすなぁ、無粋で」
 誰かと会話しているようだ。
 しかしアラシヤマの視線の先には、誰もいない。
 少なくとも人間は――まさか。
「……あんさんらのせいで、光り苔のトガワくんが怯えてますがな。かわいそうに。ほら、こんなに胞子が震えてはる。ふわ〜ふわ〜ゆうてますがな」
「……」
 シンタローは、気が遠くなった。
 ……苔と会話してやがる……。
 俺はここまで、人間やめたくない……。
 まさかこれも特殊能力……って訳は……ないよな……?
 会話って、全部コイツの妄想の中でのコト……だよな?
「アラシヤマ……だいたい光り苔って。ソレ、全然光ってないじゃねーかよ。ただの苔だろ」
 ツッコミ所が多すぎて、どうでもいい所にしかポイントを置けないシンタローである。
 独房内はただでさえ薄暗いのに、アラシヤマは灯りの一番ささない、隅の隅にうずくまっている。
 いや、アラシヤマがいるからこそ、あの一帯はやけに暗いのかもしれない。
 その暗がりから、一息置いて答えが返ってきた。
「……あっちへ行っておくれやす。トガワくんは人のいない所でしか輝けないんどす。わてと同じ……そんな共通点から、わてらは友情を育んで、このまま千代に八千代に苔のむすまで、一緒に生きていこうと約束したんどす……」
「そんなの輝く意味ないっちゃ」
 ボッ!
「おぉっ! 格子の隙間から、器用にトットリが燃やされとるべー!」
「水かけやぁ! 水っ!」
 そして、また火事騒ぎが独房棟で起こったのだった……。



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「じゃ、俺は医務室で薬取って来なきゃなんないから」
 シンタローは包帯を巻いた左手を高く上げた。ちょうど感染症予防の飲み薬が切れていた。
 寮に向かう同級生たちと別れ、彼は校舎の方へと歩き出す。
 独房棟は士官学校敷地の端にあり、すぐ側に無機質な倉庫群が立ち並んでいる。
 夕暮れ時の風景には人影はなく、初夏の風が、緩やかに彼の黒い髪を揺らせていた。
 先刻迄の喧騒を思い出す。
 あーあ、またヒドい目にあったぜ。
 シンタローは肩をすくめた。
 今回はボヤで済んだが、あーいう手合いが特殊能力持ってると、危なくってしょーがねぇ。しかも火。
 アラシヤマ一本、火事の元。
 トットリと、そこから燃え広がった火を消すために、自分たちは甲斐甲斐しくバケツリレーなんかをやってしまった。
 散々だ。
 しかし、心の隅でシンタローは、こうした同年代の少年達との触れ合いには、物足りなさと共に、何か癒されるものを感じている。
 長い間、自分がそこに浸るのは御免被りたいが、ちょっとだけなら、まあいいか、等と思ってはいる。
 それは、子供が成長するためには必要な土壌。
 彼がその触れ合いを求めるのは、ごく自然なことであって、当り前のことで、何も恥ずかしいものではない。
 しかし、シンタローは自分が子供だということに反発していたので、素直にその自分の気持ちを認めたくはなかった。
 でも最近は……ええと、妥協、じゃねぇよな。
 なんつーか。
 うーん、これぐらいなら、少しは感じてやってもいいか、といつも通り肩に力を入れて、彼は歩きながら、思う。
 まあ、悪くはねーかもな……学校生活ってのもさ。
 色んなヤツがいて、なんか、新鮮で、少なくとも退屈はしない。
 うーん……面白くないことは、ない、かも……うーん……。
 と。
 思考に浸りながらも、日が傾きかけた空を仰いでいたシンタローは、そこで自分に向けられた視線に気付く。
「……何やってんだよ」
 前方に赤い軍服。
 マジックが倉庫の扉にもたれてこちらを見ていた。



 シンタローは慌ててキョロキョロと周りを見回した。どうやらカァカァと巣に帰る鳥が、空を飛んで行くばかりだ。
 良かった。誰もいない。周囲を確認してから、シンタローは安心して腹を立てた。
 クッソ、いっつも突然現れやがってっ!
 そんなシンタローの思いを他所に、何って、と視線の主は悠然と口を開く。
「お前の待ち伏せ」
 マジックはそのままの姿勢で、薄い唇の両端を上げる。
 そして白い薬袋を差し出す。
 丁度、医務室の高松に話があったんだけれど。
 お前が来るっていうのを、そのついでに聞いたから。
「これ、取りに来たんだろう」
「……」
 何となく赤面して、シンタローはそれを受け取った。
 それがどんなに些細なことでも、彼はこういう風に自分の行動を読まれるのが嫌だった。
 特に、この男には。
「左手の怪我はどう」
「まあ……何とかな」
 斜め下を見て、シンタローはぶっきらぼうに答える。
 実際、走行中の車から人一人を抱えて飛び降りるなんて無茶をやった割には、大したことのない傷だった。
 そしてシンタローは、脇の倉庫の陰に、もう一人分の金髪が見え隠れすることに気付く。
「……お前はどうしてか手ばかり怪我をする……ねぇ、グンちゃん」
 ぴょこりと覗く顔。
「えへへ。シンちゃ〜ん!」
「……アンタら……」
 お気楽な従兄弟。
 医務室にいたから一緒に連れて来ちゃった、とマジックは言い、口元を緩めた。
「シンちゃんを三人デートに誘おうと思ってさ」
「何がデートだ、もぉ。頼むから、学校でそのノリやめてくれよな」
 シンタローはまた忙しく辺りを見回す。
 自分がこんな風にしている所を、誰にも見られたくなかった。恥ずかしすぎる。
 状況確認を済ませてから、彼はマジックを見上げて尋ねる。
「……つーか、どこ行こうってんだよ。もうじき夜だぜ?」
 総帥なんてのをやっている癖に、この男は案外、敷地内をどこでも気軽に出歩く。
 同級生達はその姿を見かける度に、何があったのだろうと好奇心満々で、ヒソヒソ噂している。
 まったく。こっちの身にもなれってんだ。
 気まぐれは勘弁してくれ。
 もっと自分が予測できる、そしてそのカッコとか、地位に見合った行動をして欲しい。
「うん、だから。幽霊を探しに」
「は?」
 そして今、返ってきた答えも、自分がまるで予測できないもので。
 シンタローは黒い目を丸くした。



「幽霊の噂ってまだ学校で続いてるの」
「……まあな。みんな平気そうな顔してるけど、慰霊碑の側には近付きたくないみたいだぜ」
 あの事件の後も、不思議に幽霊の噂は消えることがなかった。
 自分だってあれ以来、慰霊碑には行ったことはない。
 お、俺は別に幽霊なんて、ぜんぜん! 怖くなんかないけどっっ!
 シンタローは、ただあの猫使いを思い出すから、自分はあまりあの場所には行きたくないんだけどな、等と感じている。
 だがそれはグンマだって同じだろうに、今の従兄弟はどうしてか、妙にキラキラした目をしていて。
 マジックはこれから、その慰霊碑に隣接する礼拝堂に用があるという。
 部下をやればいいのにとも思うが、自分でなければ駄目だとかどうとか。どうして俺まで、と聞いても、お前と一緒じゃなきゃ嫌だとかどうとか、色々言うばかり。
 何なんだ、もぉ。
 いっつもちゃんと説明してくれないのに、そのクセ勝手で強引でワガママなんだよ、この親父は。
 シンタローは心中で溜息をついたが、あまりにも彼がしつこいのと、グンマのお願い攻撃に負けて、自分はまた付いてきてしまっている。
 誘拐事件の時や、さっきの独房に行った時といい。
 ……俺って。
 実は、意志が弱いのかも……とシンタローは微妙に落ち込んだ。
 単に、人に頼まれると何だかんだで放っておけない性質だというのが、彼に災いしているだけなのだが。
 はあ、と彼は今度は表に出して溜息をつき、隣を歩く従兄弟を見た。
 なあに、とその目が返事をして、うきうきと話しかけられる。
「ねえねえ、シンちゃぁん! お化けって本当にいるのかなぁ……あの人たちがやっぱり、見間違えられたのかなぁ……それとも猫ちゃんが、やっぱり化けちゃう……の?」
 夜になると、幽霊が出没するという噂。
 お化けだって嫌いなはずなのに、いたら絶対に泣き出す癖に。
 自分の隣で、妙にはしゃいでいるグンマ。かすかな光を集めて、夜目にも金髪がきらきら輝いていた。
 広い背中で前を歩く人と同じ色。
 ブロンドって、綺麗だなあ……と、黒髪の自分はぼんやりと思う。



「高松がねっ、噂の幽霊が、もし昔からいる学校の幽霊だったら、お話するって言ってた!」
「あァ? 何だよ、ヘンな噂流してンの、ドクターかよ」
「ち、違うもん! 昔からある話って言ったもん! それに高松はそんなコト、ぼくにしか言わないもん!」
 必死に高松を弁護しているグンマ。
 マジックに高松が叱られる可能性を警戒してのことだろう。
「わかったって。んでどんな話すんだよ」
 自分と二人並んで歩くと、微妙にグンマは遅れてしまう。
 歩幅が狭いのか、それとも歩き方が違うのか。
 今も彼は、音にすると、とてとて、といった調子で歩いている。
「えとね、えとね、」
 そして同じテンポで喋る。
「人が来たらね、赤いマントがいいかぁー、青いマントがいいかぁーって聞いてきてね、」
「ああそれ、どっちを選んでも幽霊に憑かれて殺されちゃう話だよね」
 背中が振り返って、マジックが二人の話題に参加してくる。
「最後は結局殺すのに、どうして、殺す前にわざわざ選択させるんだろうと不思議でさ。そんなことを聞くより、一瞬で終わらせた方が早いだろうに。恐怖感を煽る演出かな」
「もぉー! おじさま! ぼくが話してるのにジャマしないでくださぁい!」
「あ、ごめんごめんグンちゃん。それでお化けが聞いてきて、選んだらどうなるんだっけ?」
 シンタローは横目でマジックを見た。
 彼はこんな風に時々、殺す、ということをまるで簡単なことのように言う。
 普段は自分の前では、のほほんとしている癖に。始終、シンちゃん、シンちゃん、とバカみたいに子供っぽいのに。
 たまに垣間見せる彼の知らない顔が、シンタローには遠かった。
「うーんとぉ、赤いのを選ぶと、上からオノが落ちてきちゃって、青いのを選ぶと、下から手が出てきて血を抜かれちゃうんだってぇ……ふぇ〜んっ! コワイよぉ!」
「自分で言って怖くなってんじゃねーぜ、グンマ……」
「わあ、パパも怖いよ、シンちゃん!」
「アンタは怖がってねーだろ! つーかドサクサ紛れに抱きつくな」
 やがて鬱蒼と茂る森の側の、小さな礼拝堂と慰霊碑が見えてきた。
 かつてこの場所には、士官学校の旧館があったという。
 老朽化のため取り壊した跡地に、戦没者慰霊碑とその遺品の一部を保管するための礼拝堂を建てた。
 暗闇の中にぼうっと佇む白い石群と白い建物は、不気味に見えた。
 ちらちらと光るものが見えて、どきっとしたが、よく見ると猫の目だった。
 そこかしこに猫。
 あの時と同じ。
 一斉に襲い掛かられたことを思い出して、身体が一瞬竦んだが、すぐに立ち直る。
 あの事件があった後でも、猫にはお咎め無しで、シンタローはホッとしたものだ。
 そーだよな。悪いのは、あの猫使いだし。
 無心でいるコイツらには、罪はないはずで。
 だから……大丈夫。
 側にいる人が、動物好きで良かった。
「……知ってる?」
 高い位置から、そのマジックの声が聞こえる。



「猫は死ぬ時には」
 白御影石が闇の中で鈍く光っている。
 幾数もの死者の名前が、そこには刻まれていた。石はいくつもある。静かに立ち並んでいる。
 きっと時を経るにつれ、この石の数と名前の数は、戦死者として増え続けていく。
 ……ずっと……? 永遠に……?
「猫は死ぬ時には、何処かへ行こうとするんだ。自分一人だけの死に場所を探そうとするんだよ」
 マジックはそう言いながら、カードキーを取り出す。
 おそらくは用事があると言っていた、礼拝堂の鍵。
 どうしてそんな話をし出すんだろう、とシンタローが考える間もなく、早くもグンマが泣く前の声音で答えている。
「猫は寂しくないのかなぁ? おじさま。ぼくだったら、絶対にヤです!」
 その目には、うっすら涙のようなものが浮かんでいて。
 それを見てガキだなあ、と自分は思う。
 そして、ねェ、シンちゃんもヤだよねぇ、と同意を迫られ、『まあな』と曖昧な答えを返してしまう。気のない素振り。
 でも本当はシンタローだって、内心ではそれは悲しい話だなと感じている。
 だってさ、もし自分に仲のいい猫がいたら。
 俺はきっと、そいつが死ぬ時には、ずっと撫でていてやりたいと思うから。
 シンタローは、周囲の猫たちを見回した。
 この群れている猫たちも、死ぬ時は一人っきりを選ぶんだろうか。
 動物の寿命は短い。暗い夜と、そこに妖しく輝く無数の猫の目は、妙に感傷的な気分を呼び起こす。
「……そうだね、嫌だね。そういうことをされると、残された人間だって、実は何処かで生きているんじゃないかって、何時までも忘れられないからね」
 呟いたマジックの手元で扉が開錠される。冷たく乾いた電子音がした。



 礼拝堂の扉前の石段に座って、グンマと二人で中に入った人を待つ。
 側に白い猫が寄ってきた。耳をぴくぴくさせ、長い尻尾をうごめかせている。輪郭ははっきりしないが、胸に大きな黒い斑点があった。
 操る悪い人間がいなきゃ、お前らは可愛いばっかりなんだけどなぁ。
 シンタローがその背を撫でていると、隣に座ったグンマがのんびりした調子で呟く。この前の事件なんて、お化けなんて、どこ吹く風だ。
 コイツは案外、大物かもしれないとシンタローは思った。
「ぼく、生まれ変わるなら猫がいいなぁ……」
「あァ? なんでまた」
「なんとな〜く。シンちゃん、一緒に猫になろうよっ! そして仲良くひなたぼっこするの」
「この前は池のアヒルになりたいとか言ってたじゃねーかよ」
「うん! ぼく、何でもいいから、カワイイのになりたい」
 光を弾く青い目が、キラキラしていた。
 なんだかなあ、こういうの。
 しかもカワイイとか生まれ変わるとかどーとか、ソレ、男としてどーよ。
 シンタローは横を向いた。
「どーせならカッコいーのになろうと思えよ、もっとさ。そーだな……こう、ほら、猫の王様のライオンとかさぁ……」
「ヤだ。カワイイのがいい」
「だからお前、バカって言われんだぜ」
「違うの! ぼくはバカじゃなくって、カワイイのがいいの!」
「それが同じなんだってば」
「何? ケンカ?」
 背後から声がした。
 振り向くとマジックが、数枚の額縁と瓶のようなものを抱えて、礼拝堂の入り口から出てくる所だった。



 ぼうっと夜に浮かぶ、礼拝堂の門灯。
 薄明かりの中で、シンタローはその内の一枚が、見覚えのあるものであることに気付く。
「あ、家にあったヤツと同じのだ」
「そうだよ。昔、一緒に描かせた内の一枚さ」
 白い花の絵。
 シンタローが幼い頃に暮らしていた、日本の家。
 マジックの部屋の机上にそれはあって、自分はこの絵が大好きだった。
 見ていると何だか優しい気持ちになることができる絵。
 毎日……自分はこの絵を見つめていた。
 それをどうして礼拝堂なんかに納めていたんだろう。しかし何故か聞けなかった。
 何となく、やり場のない手をブラブラさせていると、男はその絵を手渡してくれた。
「……」
 シンタローはそれを眺める振りをして、そっと彼の顔を見上げて窺う。
 相変わらずマジックは普通の表情をしていたが。自分はこの瞬間、壁を感じていた。
 シンタローには、どうしてか彼に突き放されているという想いを味わう瞬間が、よくあった。
 それは直感。
 全ての背後に、自分には見えない何かがあるという確信。
 何かが隠されている。
 自分にはただのモノが、人が、風景が、マジックにとっては違う意味を持っているのかもしれないという、不安。
 この世界は、本当は騙し絵の世界なのではないか。
 彼には見えて、自分には見えない。
 それが単純にシンタローには寂しい。怖い。腹が立つ。
 ……もどかしい。



 自分の隣でグンマは無言だった。さっきまでは、あんなに煩かったのに、とシンタローは側を見やる。
 従兄弟の方にマジックから渡されていたものは、一枚の古い写真だった。
 グンマはそれを、灯の淡い光にかざして、懸命に見つめている。シンタローが上からそれを覗き見ると、そこには薄い金髪の人が微笑んでいた。
 その人の顔立ちはマジックに似ていたが、何となく雰囲気が違う。
 もっと柔らかい感じ。線が細い感じ。
 あえて言うならグンマの感じか?
 ――もちろん全く自分とは似ても似つかない顔だ。
「グンちゃんの……お父さんだよ。これが見たくてお前はここに付いて来たんだよね。でも写真なんて、高松なら一枚や二枚は持っているだろうに」
「ないです! おじさまの家の、むかーしのアルバムとか……時々あるイレイサイ、とか……そーゆうので、見たことあるだけです……っ!」
 グンマの父親、つまりマジックのすぐ下の弟は、自分たちが生まれる前に亡くなったと聞いていた。
 どんな人だったのかということは、全く話が出ないのでよくは知らない。顔をちゃんと見たのも、もしかしたら今が初めてかもしれないという程だ。
 この写真からして、優しい人なんだろうな、ということはシンタローにも感じ取れる。
 マジックが言う。
 お前たちの、おじいさんの30回忌の祈念式をやるんだけれど。
 それに合わせて、本部にも親族用の礼拝堂を新たに作ることにしたんだ。
 少し先の話だけどね。
 だから、ここに他と一緒に納めてある関連物を取りに来たんだよ。
 それとちょっと……見たいものもあって。
「グンマ、その写真はお前が持っていきなさい」
「やったぁ〜! おじさま、ありがとー!」
 写真を抱き締めて、ぴょんぴょん跳ねている従兄弟を見ながら、シンタローは少し笑った。
 グンマを可哀想だと感じ、もう一つ――
 また、自分には何故か入ることのできない空間というものを、感じていた。



 目の前の黒猫が、闇の中で一点を見つめている。
 礼拝堂の陰で、突然鳴った発信機に答えているマジック。やけに長いそれを待つ間に、いつの間にか眠ってしまっているグンマ。
 柔らかい金髪が、シンタローの肩にもたれかかってくる。腕には大事そうにあの古い写真。
 自分は、白い花の絵はマジックに返してしまった。よくわからないが、何となく、これをわざわざ取りに来たのかなぁ、と思ったからだ。
 マジックは、別に、香水か何かの瓶を手にしていた。
 こんな花の絵や、あんな瓶が形見だなんて。なんか、変わってる。
 ……肩に感じるグンマの重みが増した。
『知ってるでしょぉ、シンちゃん。ぼく、お化けって、だいだい大嫌いだし……それに、さらわれたのコワかったから、あんまり暗い時には、ここ、来たくなかったんだぁ。でもねぇ、おじさまがルーザーお父さんのお写真、見せてくれるっていうから。だから、がんばってコワくないフリして付いてきちゃったぁ』
『えへへ、ぼく、こわがってないよーに見えたよねぇ?』
『見せてもらえるだけじゃなくって、お写真もらっちゃったぁ! 来て良かったあ〜』
 さっき、そう笑って自分に打ち明けてきた時の、心底嬉しそうだったグンマの顔。
 ……口開けて寝てやがる。
「ったく、しょうがねーな」
 シンタローは制服の上着を、従兄弟の細い肩に被せる。
 開襟シャツだけの肩が、夜の風にぶるりと震えた。
「……寒そうだね」
 頭上から声が降ってきた。
 見上げると、マジックが長身から自分を見下ろしていた。



「寝ちゃったんだね。グンちゃんは可愛いな」
 お前も昔は素直で可愛かったのに。
 そう呟いて、彼は礼拝堂の扉に軽くもたれ、暗く遠い空の方を青い目で眺めている。
 シンタローは、その人を切れ長の目で見上げた。
 昔は昔はって。アンタは、いっつもそればっか。
 マジックが、昔、と繰り返す度、シンタローの心の奥はちくりとする。
 石段に腰掛けた自分の膝を、ぎゅうっと握ってしまう。
 現在の自分が否定されているようで。こんな俺で悪かったな! とムッとして。
 そして同時に、寂しくなる。
 しかし実際には何を言うべきかわからなくて、でも何かを言わなければいけないような気がして。いつもシンタローは当て所もなく口を開き、どうでもいいことばかりを話してしまう。
「グンマってば、にゃーにゃー猫がうるさいのに、よく寝れるゼ。しっかし何でこんなに鳴いてんだろ」
 猫たちが飽きることなくあげる鳴き声は、どこか物悲しかった。この声が幽霊を連想させるというのも、わからないでもない。
「恋の季節だからね」
「はァ? 恋ぃ?」
 シンタローは、その突然出てきた単語に赤面した。
 頬を手の平で押さえる。暗くて良かった、と思う。
 彼はその手の言葉に過敏な、思春期の少年だった。
「ここは暗くて寂しいから」
「な、なんか関係あんのかよソレ」
「関係あるよ……猫だって人だってみんな同じさ」
 こんな話題は苦手だ。
 そして、それを平気で口に出す男も苦手だ。
 そっぽを向くシンタローだが、その横を向いた耳に、マジックがそのままの声で淡々と呟く台詞が聞こえる。
「寂しいと、人は恋をするんだよ」



「……幽霊なんて、やっぱいなかったな。つまんないぜ」
 どう答えていいかわからなくて、シンタローは慌てて話題を変える。
 相手も続ける気はないようだった。
 新しい話題に、返ってくる不思議そうな声。
「つまらない?」
 相手の視線がこちらに向くのを感じた。
「私は全然つまらなくないよ。面白いよ。お前といると……いつも不思議なことしか起こらない」
「不思議って。お化けも出なかったのに」
「それでも、さ。不思議だよ。全てがね」
 そうやっていつも通り理解不能なことを言ってから、いたずらっぽく彼が聞いてくる。
「お化けが出なくて不満なのかい。じゃあパパが代わりに『赤マント? 青マント?』って聞く問答お化けに、」
「却下」
「もう。どうしてシンちゃんは、そうつれないのかな……昔だったら絶対に、わくわく可愛く、赤マントを選んでたねお前は。だって大好きなパパの服の色は赤だし、何故かお前は青色が余り好きじゃなくって……」
「あーあーわかったわかった! 選べばいーんだろっ! 選べば!」
 一通り相手してやらないと、この男はしつこくてしょうがない。
「……じゃあ両方。お化けに赤青どっちって聞かれたら、俺は両方って言うよ」
「両方? 変わった答えをするね、お前」
「両方選んで、上下から攻撃されたトコを、避ければいいよ。そして相打ちになったお化け二人をとッ捕まえて、成仏させてやる」
 茂みで、ひときわ長く尾を引く猫の声がした。
 するとそれを契機に、最初はめいめい勝手に鳴いていた猫たちの声が次第に、虚空で寄り集まっていく。
 啜り泣きのような声が、高く低く、膨らみ萎み、暗い空と森へと消えていく。
「……成仏まで考える所がお前らしいね……」
 そのまま会話は途切れて、マジックはただ立っていた。どこか遠くを見ているようだった。
 シンタローは自分も彼と同じ方向を見る。
 やはりそこには暗い空と森しかなかった。
 歌うような悲しいような鳴き声。その旋律。
 いつか闇に消えていく。
 マジックは何かを待っているように、シンタローには見えた。



「幽霊、やっぱりここにはいないんだね」
 長い間の後、突然そう言われて。
 さっきの自分の台詞と似ていたが、それでもどこか漂う本気を感じて。
 シンタローは戸惑う。
「……はァ? まさかアンタ、マジで信じてたのかよ、ユーレイを」
 呆れた大人だ。デカい図体。しかも総帥。
「うーん、そういう訳じゃないけれど。でも……お前と一緒に、私は幽霊に会いたかったよ……さて」
 そこで会話を終わらせると。
 輝きの濃い金髪を揺らして、マジックは側に近寄ってきた。
 腰を屈めて、自分の横のグンマの体を持ち上げようとする。
 シンタローは急いで上に掛けてあった自分の制服を取った。
 軽く手が触れ合う。
「この子は私が連れて行くよ。お前もご苦労様。戻りなさい」
 彼は、すうすうと寝息を立てている少年を抱き上げる。
 この子が遅くなるとまた高松が煩いし。深い溜息をつきながら、男は歩き出す。
 そしてすぐに立ち止まる。
 ――ああ、何だか。
 遠い昔にも、今と似たようなことがあった気がするよ、と。
 彼は囁くように言った。それから自分に向かって、振り返る。
 今日は、一緒に来てくれて嬉しかったよ。
 お前の手は、いつも……熱いね。
 去っていく背中を見つめるシンタローには、氷のように冷たい手の感触だけが残っていた。








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